遺言書作成の相談を希望されるご高齢のお客様は、多くの場合、相続人であるお子様などご家族を連れ立っていらっしゃいます。その際、同行されているご家族から「母(父)は最近、物忘れが進んで認知症じゃないかと思うのですが、遺言の効力に問題はないでしょうか」とのご質問を受けます。

遺言作成時に、遺言者が遺言を作成できるだけの意思能力がないと判断された場合には、その遺言書は無効となります。では、遺言を作成できる意思能力(遺言能力)の有無はどのように判断されるのでしょうか。ここでいう遺言能力とは、自分で書いた遺言の内容で、どのような結果が生じるかについて判断、理解できる能力です。したがって、認知症だからといってもその程度に差がある訳ですから、直ちに遺言能力が否定されるわけではありません。
裁判で遺言能力が争われた事案では、下記のような点を総合考慮して判断されています。
①遺言者の病状・程度
裁判では、診断書やカルテなどの医療記録が重要な証拠となります。判断認知症の検査でよく用いられる長谷川式認知症スケールの点数について、あくまでも目安ですが、10点以下の場合は意思能力が否定される可能性が高いとされています。もっとも、10点以上でも遺言能力無しとされる場合もありますし、10点以下でも遺言能力有りとされるケースもあります。
②遺言内容の複雑さの程度
内容が複雑であるほど、遺言能力は否定されやすくなります。逆に、相続人の一人にすべて相続させるという内容のように、簡単な内容であれば遺言能力は肯定されやすいと言えます。
③遺言作成の経緯や動機・理由
「長く介護をしてくれた長女に多く財産を遺したい」など、客観的な事実と整合する内容が動機として記載されている場合には、遺言能力が肯定されやすくなります。逆に、生前の遺言者の言動からして不自然な内容であれば、遺言能力は否定されやすくなります。
また、公正証書遺言の場合は、公証人が遺言者にその内容を確認しながら作成するという点や、相続人以外の立会人2名がいるという作成経緯があるため、遺言能力が確認されているという風に考えられ、裁判で争われても無効となることは稀です。
認知症が進んだとしても、こうしたい、ああしたいという欲求や希望が無くなる訳ではありません。個人的には裁判所においても、自分の財産を誰に残したいかという遺言者の最後の希望について、基本的にはそれを尊重しようという姿勢があるように感じています。
弊所では、相続に関するご相談は初回1時間無料ですので、遺言書の作成についてもぜひご相談ください。


