1 弁護士会照会とは
弁護士は様々な方法を使って事実の調査を行いますが、その手段の1つとして、弁護士会照会があります。弁護士法23条の2に定められていることから、「23条照会」とも呼ばれます。
弁護士会照会を利用することにより、たとえば、銀行に対する預金の有無や出入金状況の照会、通信関係会社に対する契約者情報の照会、医療機関や介護施設に対する診療録等の照会、警察に対する物件事故報告書の照会など、多種多様な情報を入手することができます。
2 弁護士会照会の注意点
弁護士会照会の利用にはいくつか注意点があります。
まず、弁護士会照会は、弁護士が「受任している事件」について利用できる制度ですので、事件を受任していないのに利用することはできません。したがって、弁護士に対して事件を依頼せず、弁護士会照会による調査だけを依頼することはできません。
次に、弁護士会照会は、弁護士会を通じて行うもので、個々の弁護士が直接第三者に対して事実の照会を行うものではありません。
三点目として、弁護士会照会は「公務所又は公私の団体」に照会するものですので、個人の方に対して照会を行うことはできません。ただし、弁護士、司法書士などの士業の事務所や個人経営の医院、商店などについては照会することができます。
3 弁護士会照会の手続き
まず、弁護士が所属する弁護士会に対して照会の申し出を行います。申出書には照会先の名称や住所、受任事件の内容、照会を求める事項、照会を求める理由などを記載する必要があります。
申出書の提出を受けた弁護士会は、申出書の内容について審査を行った上で、照会先に対して照会書を発送することになります。
弁護士会による審査は形式的なものではなく、照会事項や照会理由について(時に厳しすぎると思えるほど)実質的な審査が行われますので、照会申出書は記載事項を厳密に検討した上で作成する必要があります。また、多くの場合、事前に照会先に対して回答を求める事項について情報を有しているかどうかや回答の可否について確認しておくことが有用です。
なお、弁護士会照会は、1件につき1万円程度の費用がかかります。
4 弁護士会照会を受けた場合の対処方法
弁護士会照会を受けた照会先には、照会を受けた事項について報告する法的義務があると解されています。したがって、正当な理由なく回答を拒否することはできません。
ここでしばしば問題になるのが、照会事項に対する回答が守秘義務違反やプライバシー侵害になるのではないかということです。
この点について近時の裁判例は、病院を経営する法人が弁護士会照会を受けて患者の診療録等を開示したところ、当該患者から守秘義務違反を理由に損害賠償を請求された事案において、弁護士照会を受けた法人において照会の必要性や相当性を積極的に調査する義務はないことから、守秘義務違反を問われるのは、照会書の形式的な記載内容や元々病院が保有している情報等を加味して、弁護士会による審査が明らかに合理性を欠くと判断できるような特段の事情にある場合に限られると判断しています(東京地裁令和4年12月26日判決・判例時報2587号137頁、結論として請求棄却)。
前述した通り、個々の弁護士から弁護士会照会の申し出を受けた弁護士会は、照会の必要性・相当性についてかなり厳格な判断を行っていますので、弁護士会による審査が明らかに合理性を欠くと判断できるケースというのは稀であると考えられます。したがって、弁護士会照会を受けた場合、ごく例外的なケースを除いて回答すべき義務があるということを前提に、回答の可否を判断すべきであると思われます。